コラム:トランプ氏に挑む「イエレン経済大統領」
2016年12月18日

コラム:トランプ氏に挑む「イエレン経済大統領」

[東京 16日] - 米国では14日、1年ぶりに利上げが再開され、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は0.25―0.50%から0.50―0.75%に引き上げられた。

また、米連邦準備理事会(FRB)が発表した連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの経済見通しでは、0.25%ずつ利上げをした場合、2017年の利上げを3回とするのが標準的との見方が示された。9月の経済見通しでは、2回という見方だったが、その回数が増えたことになる。

ここで注意すべきは、この見方がトランプ次期政権の経済政策に対し影響を与えようとしていることだ。今回発表された経済見通しを見ると、成長見通しは16年と17年分については、前回よりも0.1%引き上げられているが、18年は据え置かれている。潜在成長率にあたる長期(longer-run)の成長率は1.8%で前回から変更がない。

17年の成長率引き上げは、今年第3四半期の成長率が前期比年率3.2%と高く、第4四半期の数字もしっかりしているので、年間成長率の上のせとなる「ゲタ」の分を勘案すれば、実質的にはほとんど上方改定をしていないことになる。トランプ次期政権が積極的な財政拡張に走るとすれば、その予算が執行される18年の成長率は高められるが、まだ政権も発足していないので、当然、その分の数字の上乗せはない。

一方で、失業率は「完全雇用の失業率」といえる長期の失業率を4.8%としながら、17年から19年まで4.5%に置いた。そして、インフレ率は18年に目標の2%に達し、それが続くという見方を示している。経済刺激策を取らずとも、米国経済は理想的な状態になるというのである。

FRB議長が示した経済政策全般の方向性


イエレンFRB議長は記者会見で、財政政策の決定は議会に委ねるべきとの姿勢を示したが、この経済見通しの提示で、しっかりと財政発動のあり方に注文を付けていると見ることができよう。今の米国経済は、完全雇用に見合う失業率より低い失業率であり、この状態で総需要の刺激は必要ないというのである。もし、その状態で次期政権が財政拡張に走れば、利上げペースをさらに引き上げると予告しているようなものだ。

一方で、潜在成長率は据え置いている。財政政策を投入するならば、この数字を引き上げることが求められるというメッセージだろう。つまり、潜在成長率を高めるインフラ投資などには肯定的だと考えられる。そうした財政発動であれば、FRBは利上げを、今回のFOMCで示した見通しよりも急がなくてよいということだろう。

記者会見では、金融規制のあり方についても答弁があった。11月17日の上下両院合同経済委員会での発言にも通じるが、リーマン・ショック後の金融規制の整備、ドッド・フランク法の規制体系を評価している。これによって、米国の金融システムは強靭(きょうじん)さを増して、人々を安心させているというのである。

トランプ次期大統領の経済政策は、減税とインフラ投資の財政政策、規制緩和、生活水準が上がらない労働者の不満に応える保護主義的政策が柱になると予想されている。規制緩和が経済成長を刺激することへの期待は大きい。イエレン議長は、そこに挑戦的な姿勢を示している。

振り返れば、グリーンスパン氏は18年間、FRB議長の任にあった。その間、末期はバブルを見過ごし、惨澹(さんたん)たるものだったが、18年間の過半は、経済の安定を確保し、「経済大統領」として尊敬を集めていた。

それを引き継いだバーナンキFRB前議長は、果敢な金融政策で、恐慌の淵(ふち)にあった米国経済を、極めて短い時間で、成長・失業率ともに安定した状態に戻すことをやってのけた。経済大統領の地位に相応しい仕事をした。

14日の経済見通しの提示と記者会見の発言は、イエレン議長が、前述の通り、経済政策全般の方向性を示しているところがある。経済大統領として振る舞おうとしていると言って過言ではないだろう。

トランプ次期大統領の人事カード


では、イエレン議長の示した方向性は現実になるだろうか。それを左右するのが、大統領が指名できるFRB理事の人事になる。

FRB理事の定数は7人だが、現在、空席が2つある。この空席分をトランプ次期大統領が指名できる。次期財務長官に指名されているスティーブン・ムニューチン氏は、この空席を迅速に埋めると発言している。実際、承認権限を持つ上院は政権政党である共和党が優位なので、迅速に行われるだろう。

FRB理事は、FOMCで常時投票権を持つ。空席とは別に、今の理事が離任する動きもあるかもしれない。イエレンFRB議長の任期も18年2月3日までであり、再任は可能だが、いずれにしても次期議長指名の権限は大統領にある。今回のイエレン議長の主張(総需要刺激の必要性は当面乏しく、現行の規制政策が有効)に不服であれば、トランプ次期政権はFRB理事の指名を通じて、影響力を行使できる。

トランプ次期大統領がそのカードをどう切るか。これが、当面の懸念事項だ。それによっては、今回のFOMCの経済見通し、利上げの進め方は書き換えられてしまう。FRB理事の指名、承認があるまで、不確実性の高さから、市場のボラティリティ―は大きくなりそうだ。

引用:ロイター  ←応援よろしくお願いします!
posted by 失敗しないFX at 12:00 | 今日のFX・為替ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする