コラム:世界的デフレ終焉、今回は本物か
2017年01月16日

コラム:世界的デフレ終焉、今回は本物か

[東京 16日] - デフレの終焉――。筆者がマクロ経済や金融市場の分析に関わって、この言葉をこれほど目にしたのは初めてだ。ほぼ同じ文脈で、債券の強気相場が終わったとの指摘も多い。いずれも半年前には少数派だった。一体、何が変わったのだろうか。

米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利が1つのきっかけになったとの見方に異論はないだろう。だが、それがなぜデフレに幕を下ろすことにつながるのか、明確な説明は見当たらない。

もちろん、トランプ氏の掲げる大規模な財政支出は、米国景気を押し上げ、需給ギャップの縮小を通じてデフレを終息させる可能性がある。その財源を米国債の発行に頼れば、国債市場の需給が緩み、債券価格には下落(金利には上昇)圧力がかかるだろう。

そして、米景気回復は連邦準備理事会(FRB)に金融緩和の縮小を促すため、米金利には一段と上昇圧力がかかる。さらに、米国以外の国・地域のファンダメンタルズに変化がなければ、ドルは上昇。米国の低金利を嫌気して国外へ向かっていた資金の一部は再び米国へ戻り、他の国・地域では資金流出と通貨下落が顕在化するだろう。

通貨下落は輸入物価の上昇を通じて、インフレ圧力を高める。通貨下落を阻止しようと為替介入に踏み切れば、外貨準備の減少が避けられない。外貨準備は通常、米国債をはじめとする主要先進国の債券で運用されている。米国以外の国・地域での為替介入は、国債の売りを通じて、米国を含む主要先進国の金利を上昇させるだろう。

金融市場間の連動性を踏まえれば、事の発端は米国でも、世界的な金利上昇となることに違和感はない。確かに、トランプ氏の掲げる大規模な財政支出は、デフレを終わらせ、債券相場を圧迫するだろう。

トランプ氏よりオバマ政権の財政政策にヒント


しかし、最も肝心なトランプ氏の財政政策は今のところ実現していない。それどころか、いつから、どの程度の規模の財政支出が、どのように具体化するかには高い不確実性がある。

トランプ氏の財政政策が人々にデフレの終焉(しゅうえん)を想起させるきっかけの1つになったことに疑いはないが、決定的とまでは言えなさそうだ。逆説的だが、このことが、今や少数派であるデフレ継続、債券強気派の根拠なのだろう。

筆者はトランプ氏よりも、オバマ米大統領の財政政策に注目している。実際、国際通貨基金(IMF)が2016年10月に公表した「財政モニター」によると、米国のプライマリーバランス(基礎的財政収支、景気循環調整済み)は対潜在国内総生産(GDP)比で2015年のマイナス1.42%から16年にはマイナス1.94%まで赤字幅が拡大。その分だけ、財政再建が後退したと言える。

米国でプライマリーバランスが悪化するのは6年ぶりだ。2016年はユーロ圏でも前年のプラス1.06%からプラス0.61%へ、日本でも前年のマイナス4.54%からマイナス4.80%へプライマリーバランスが悪化し、20カ国・地域(G20)では2年連続で赤字幅が拡大した。

中国の生産者物価指数(PPI)やユーロ圏の消費者物価指数(HICP)、米国の平均時給の伸び加速は、まだ見ぬトランプ氏の財政政策よりも、すでに実現した財政政策によってもたらされたと考えられる。

こうした財政政策の積極化とデフレ圧力の後退は、リーマン・ショック後にも確認できる。実際、米国のプライマリーバランスは住宅市場の崩壊が顕在化し始めた2007年以降、2010年まで4年連続で悪化。G20全体でも2007年にマイナス0.50%だったプライマリーバランスは2008年にマイナス1.52%、2009年にマイナス3.67%と急速に悪化した。

そして、金融緩和に積極的な財政政策が重なったことで、世界景気は2009年の前年比マイナス0.1%から2010年の同プラス5.4%へV字回復。2011年は同プラス4.2%へ鈍化したものの、世界景気の堅調さを示すとされるプラス4%台を維持した。

しかし、その後、ギリシャの財政問題などを受けて、欧州で財政再建への取り組みが本格化。米国でも財政均衡を主張する共和党茶会派が台頭し、リーマン・ショック後の積極財政路線は大幅な修正を余儀なくされた。当時、G20のプライマリーバランスは2010年にマイナス3.90%まで悪化した後、2011年にはマイナス2.83%と大幅に改善。2014年にはマイナス1.14%まで赤字幅が縮小した。

筆者は2016年にかけての世界的なデフレや低成長の原因について、構造問題よりも、拙速な財政政策の転換や金融緩和の修正にあったと考えている。2016年以降、それが再び修正されたのだから、デフレや低成長が終息するのも当然だ。

欧州で強まる緊縮財政への拒否反応


むろん、逆に言えば、このことは、今後の政策次第でデフレや債券の強気相場が再び訪れる可能性を示す。今の段階で、デフレや債券の強気相場が終焉したと結論付けることは難しい。

とはいえ、足元で2011年から2014年にみられた財政政策の急速な転換は起きそうにない。当時、いち早く緊縮財政に舵を切った英国は、欧州連合(EU)離脱への対応で景気を下支えする方針を明確にした。大陸欧州では、南欧諸国を中心に緊縮財政への拒否反応が強まっている。

これまで財政健全化に固執してきたドイツでさえも、国内では総選挙後の減税方針を示し、ギリシャのクリスマス手当の支給を阻止することができなかった。欧州各国の政治家にとって、難民に衣食住を提供する一方で国民に緊縮を求めることは難しい。

米大統領選でのトランプ氏の勝利は、各国政府が国民に不人気な政策を先送りせざるを得ない現実を改めて浮き彫りにしたと言える。財政再建の取り組みはいずれ避けて通れない道とはいえ、明日の生活に不安を抱える失業者や不安定な雇用環境にいる労働者などにとっては、理想論にしか聞こえないだろう。低成長と所得の伸び悩みは、緊縮財政に伴う国民の負担を一段と大きくする。

筆者はトランプ氏の勝利後、多くの国・地域で予想物価上昇率が上昇したことについて、緊縮財政への転換に時間がかかることを反映したと解釈している。そして、予想物価上昇率の上昇は、金融緩和の効果や原油価格の安定などとも相まってデフレの終焉を確実なものとするだろう。今回の債券相場の下落は、短期的なスピード調整があったとしても長期化する可能性があり、強気相場を終わらせるだけの材料もそろっているようにみえる。

引用:ロイター  ←応援よろしくお願いします!
posted by 失敗しないFX at 18:00 | 今日のFX・為替ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする